「アイデンティティ」 ―original―

 

「詳しい報告をしろ」

男の声は疲労を含んだものでした。

「昨日送ったデータの通りですが」

アンドロイドの答えに男は軽く手を振り、

「お前の電子頭脳を通した話を聞かせろ」

椅子に座りなおしました。

「解りました。故障点のひとつとしましては、言語機能ですね。敬語が使えていません。

また、動作にも奇妙な点が多々見られます。

そうですね…こう言った表現もおかしいですが…まるで人間のような動きをすることがあります」

男は深い溜息で応え、

「まぁ、電脳をバラせば原因もはっきりするだろう。

例の…個性がどうとか言うのはどうなった」

目で続きを促しました。

それが本題か、とアンドロイドは納得して、簡潔に答えました。

「相変わらず、個性というものに、並々ならぬ感心と興味があるようですが、

危惧していた人間への反抗意思は無いようです。

昨日スタンダードと接触した際も、人間の役に立ちたい、と発言していました」

アンドロイドは、そのときの会話を記憶から引き出し、溜息を零しました。

「まったく、本当に奇妙です」

「…お前も一度、検査に回すか」

男の口調は硬く、本気であることがわかるものでした。

「お前は監査型のオリジナルだ。あれらとは違う。

忘れるな、お前は性能も製造過程も、最初から全部、あれらとは違うんだ」

アンドロイドは丁寧にその言葉を処理し、この男の遠まわしな表現に内心呆れていました。

「仰る意味がよく解りませんが」

「巧く言えんが…、どこか、あれに影響を受けているように見える。

お前は個性について考える必要など、ありはしないのだぞ」

男は立ち上がりました。

「あれは今日中に初期化する」