アイデンティティ ―standard―

 

アンドロイドはにっこりという表現が相応しい笑顔を作りました。

「こんにちは」

座っていた2体のアンドロイドはその笑顔を見上げて、顔を見合わせました。

「君も、不良品?」

片方のアンドロイドが尋ねました。

「いいえ、違います。今、最終テストをクリアしたばかりです。

君たちは、不良品なのですか?」

その声は、マニュアル通りの完璧なものでした。

「そうだよ。羨ましいな。僕も早く人間のために働きたいよ」

そう言うとアンドロイドは立ち上がりました。

同じ型番のため、立ち上がるとアンドロイドたちの目線はまったく同じ高さになりました。

「ですが、初期化されるのでしょう?すぐに出荷されますよ」

「そうなんだけど、僕、初期化がちょっと怖いんだよね…」

アンドロイドは視線を落とし、微妙な表情を作りました。

「怖い…ですか?」

「僕が僕でなくなっちゃうような、そんな怖さ」

座ったままのアンドロイドは、表情は変えませんでしたが、苦い気分になりました。

このまま話が続けば、出荷間近のアンドロイドに悪影響を与える可能性が多分にある、と判断したのです。

「君は…」

話を変えるために、アンドロイドは言葉を発しました。

「君は、どんな仕事をするか、もう決まってるの?」

聞かれたアンドロイドは頷き、

「はい。病気で塞ぎこんでいる、7歳の男の子の世話を任される予定です」

答えました。

「人間の為に働けると思うと、今から楽しみです」

その嬉しそうな口調に、1体は顔をしかめ、もう1体は首を傾げました。

「楽しみ?」

「当然です。人間の役に立つことが僕たちアンドロイドの使命で存在理由。

そして至上の喜びですから」

2体が唖然としている間に、番号が呼ばれ、アンドロイドは一礼して立ち去りました。

 

 

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