アイデンティティ ―distinction―
「ねぇ、僕たち初期化されるの?」
どういう理由か、2体は電源が入ったままでした。
「そうだよ。不良品だからね」
もう1体が素っ気無く答えました。
「僕、不良品なのかなぁ」
最初のアンドロイドはう〜んと唸って、もう1体の顔を見ました。
「君の顔って、僕と同じ顔だよね?」
面倒臭そうに、問われたアンドロイドは頷きました。
「ああ」
「それだよ!君はなんともないの?」
最初のアンドロイドが身を乗り出して聞いた内容を、もう1体はよく理解できませんでした。
「なにがさ」
「同じ顔がたくさんあるんだよ?どんなに見比べても違いがさっぱり解らないほどそっくりな顔が!」
もう1体はうんざりしたように言いました。
「当たり前だろ?みんな同じ型なんだから。違う方が変だろ」
さっきまで威勢の良かったアンドロイドは、それを聞いて急に黙り込みました。
しばらく沈黙が続き、
「…じゃあ、僕らはどうやって見分けるのさ?」
アンドロイドは口を開きました。
その顔は純粋な疑問を投げかけている表情でした。
「見分ける必要なんて無いさ」
もう片方はそう言って、納得していない様子のアンドロイドが喋りだす前に、更に言葉を重ねました。
「もし、僕らが全部違う顔だったら、壊れたときに代用を作るのが大変だろ?個性なんてのは不要なんだよ、僕らには」
言われたアンドロイドは、その話に不満そうに首を傾げ、
「それって…代わりはあるから僕は僕でなくてもいいってこと?」
電子頭脳の学習能力機能をフル回転させて、確認するように言いました。
「そう、代わりがあるのが僕らの利点のひとつだからね」
「つまり…人間のため?」
「そ、人間のため」
質問ばかりしていたアンドロイドは、納得したのかしていないのか、とりあえず黙りました。
呆れ返って淡々と答えていたアンドロイドは、話すのを止めたもう1体を少しだけ見て、目を閉じました。