アイデンティティ ―prologue―
今より少しだけ先の近未来。
某日某所某時刻。
たくさんのアンドロイドが数秒おきに造りだされ、お行儀良く並んで起動される日を待っていました。
それらは最新型の家庭向けアンドロイドで、感情がプログラムされていました。
感情と言っても、人間の話の内容から返答を決定し、それに合わせて表情や口調を選択する、
といった極めて人工的なプログラムですが。
まぁ、流れは人のそれと大差ありません。
莫大な研究資金をかけて開発されたそれは、ようやく実用化に辿り着いたわけです。
数日後、最終テストを終えたアンドロイドたちは次々と市場へ送り出されました。
製造ラインの横で座る、2体を残して。
2体は最終テストで落とされた所謂、不良品でした。
初期化されることが決まり、出荷の波が終わるまでの一ヶ月弱、
毎日生まれる自分と同じ姿のアンドロイドを見ながら、工場の片隅に放置されることになりました。
残された2体は兄弟たち、いや、自分たちを見送りながら、それぞれ自分について考えていました。