『静かなる発狂』
「あたしが可笑しいのかな?」
言った顔は笑んでいた。
何も言い返せない亜季も、同じように笑った。
2人とも相手のその表情を楽しそうに観察している。
更に唇の端が上がった。
あはっ。
「もう、我慢できないの」
一層艶やかに瞳を細める。
ガラス玉のように透き通った目が亜季の顔を映していた。
「貴女が、大好きだから」
言葉を噛み締めながら、2人の距離が縮む。
亜季は心地良さに陶酔した。
「誰よりも、何よりも、愛してるから」
その病人のように細く白い手が、亜季に伸びる。
殺される…。
待ち望んでいた、瞬間。
あまりに甘美で眩暈がした。
「解放してあげる」
白い手が、亜季に繋がる生命維持装置のコードを、抜いた。
亜季は目を開けた。
結末はいつも変わらない。
こんな途方も無く無為な時間に耐えられなくて、何度も想像してみるのだけど。
目を開けると亜季はその光に、空気の匂いに生を感じざるを得ないのだ。
夢の中で殺してくれるのは、見たことがないほど綺麗に微笑む、自分自身だというのに。
あぁ…。
愛してるわ、誰よりも。
だから私を殺して。
愛してるわ、何よりも。
だから私に殺されて。
ねぇ…私。
それでも…彼女がどんなに夢見ても、亜季の想いが外部に出る術も無く。
まして動けぬ己に己を殺させることが出来ようはずも無く…。