「姫様!!」
護衛の一人が叫んで、走ってきた。
振り返るとみすぼらしい姿の少年が歩いている。
足取りが覚束ない様子から見ると、病気かもしれない。
「お下がりください!」
こんな子供にまで、剣を向けるのか…。
「…誰か、手当てを…」
呆れ果て、溜息を吐きながら言いかけた瞬間―。
形容し難い、音がした。
敢えて言うなら、鋏で布を裁ったような。
肉を引き裂く、音がした。
「流行り病を持っているやも。誰か、処分を」
生ごみのように、少年は引き摺られていった。
「…命まで奪う必要が?」
私の声はどこまでも冷静で落ち着いていた。
「流行り病を持っていましたら、一大事です」
確証など、有りもしなかったというのに…。
「加えて、一般人は許可無く姫様に近づくことを禁じられています」
……。
「姫様、念のため、湯浴みをしてください。侯爵様にはお伝えしておきます」
……。
「はい」