あまりに酷い雨だった。
その屋根を打つ音で眠れないほど。
耐え切れず、呼び鈴に手を伸ばして思い出す。
侯爵様の手紙を持って来られた使者が、客室に宿泊なさっていることを。
少し悩んで寝台を下り、侍女の部屋へ通じる扉を開けた。
彼女はまるで雨など気にならない様子で、軽い寝息をたてていた。
思い直して寝室に戻ろうとしたとき、
「誰ですか?」
起こしてしまった。
「…カーテンをもう一枚掛けて欲しくて…」
「まぁ姫様!すみません、気が利かなくて…そうですね。今夜は雨が酷いですから、眠れませんね」
寝起きだというのに慌てて体を起こし、クロゼットから厚手の秋用カーテンを取り出す。
そして無駄の無い動作で手早く窓に取り付けた。
「また何かありましたら、お呼びください。お休みなさいませ」
ブランケットに包まると急に、雨の音が取るに足らない、些細なことに感じた。
随分と神経質になっていたようだ。
明日を拒むという無謀な悪足掻きがしたかったのだろうか。
私は悪足掻きを諦め、微睡みに沈んだ。
…私たちに神と称せられるものよ。
目覚めるにはまだ、祈りが足りませんか?
それとも祈るだけでは足りないのでしょうか?
この倦怠感と惰性と醜気の入り乱れた、狂った夢から覚めるには。