「可愛いメアリ」
メアリはとても可愛らしい容姿をしていました。
その笑顔の愛くるしさは誰もが羨むほど。
金色の巻き毛は美しく、青い瞳は人形のよう。
メアリのお気に入りは、うさぎのぬいぐるみのマリー。
毎晩一緒に眠ります。
メアリが世界で一番好きなのは、お父様。
仕事で忙しいけれど、毎日暇を見つけてはメアリに会いに来てくれます。
メアリの口癖は、「世界で一番可愛いのはだれ?」
毎日お父様に言って、
「それはメアリだよ」
と言われるのが、嬉しくて堪りません。
ちょっとプライドが高くて、我儘なところもあるけれど、
メアリの可愛い一挙一動を、みんな見守っていました。
「お父様、お父様」
今日もメアリは聞きに来ます。
「世界で一番可愛いのはだれ?」
お父様は微笑を浮かべ、
「それはメアリだよ。メアリより可愛い子を、私は見たことがない」
メアリの頭を撫でました。
「もう仕事に行かないと。それじゃあね、メアリ」
「行ってらっしゃい」
一緒に来ていたお父様の部下は苦笑しました。
「なんですか?あの質問」
「『世界で一番可愛いのはだれ?』ってやつのことかい?」
部下は頷きました。
「口癖。可愛いだろ?」
上機嫌で言うお父様―メアリの生みの親であるDr.チャペック―を見て、
部下は「悪趣味」と呟きました。
「可哀想じゃないですか。来月にはまったく同じメアリ≠ェ、国中、いや世界中に溢れかえるのに」
Dr.チャペックは鼻で笑い、
「あれは生きてない。悪趣味なのは人形遊びが止められない、この世界の人間どもさ」
ちらりと、モニターのメアリを見ました。
メアリの髪は金色で巻き毛。
メアリの瞳は綺麗な青。
お気に入りはうさぎのぬいぐるみのマリー(付属品)。
ちょっとプライドが高くて我儘。
口癖は、『世界で一番可愛いのはだれ?』
メアリはその、設定という名の運命を変える術を、持っていませんでした。
K-S-33シリーズが普及してから、数年後のお話。