「帰りの車内にて、馬鹿にされつつ口説かれる」 ----------------------------------------------------
前を向いたままだったから、台詞に合わせた表情など作っていなかったかもしれない。 むしろ、俺から顔が見えないのを分かっていて話を始めたのか。 どちらにしろ、相変わらず芝居掛かった態度だ。
一目惚れなんかよりよっぽどだ。
ヘッドライトが照らす範囲には他に車の姿はない。 ただうるさいくらいに虫の声が聞こえてきた。
横目で見た顔は無表情だった。 街灯は一瞬で流れ去り、すぐにまた光も運転席の横顔も見えなくなる。
己の望む価値観の基に己の望む言動をする人間が好みなんだからな」
あぁなんだ。お前機嫌が悪いのか。
対向車もない暗い道を長く走っているせいで、時間の感覚も狂ってきた気がする。
果てしなくこいつに愚痴られるよりは会話の方がまだマシだ。 キョウが声も無く笑ったのが気配で分かった。
「見えもしないものに悪魔の証明を持ち出すな」 「存在は証明できるからな」 あるかどうかも証明できないだろうと言う前に断言される。
うるさいくらいだった虫の声が遠のいた。 |