『脇役』
こんにちわ、勇者様。
こんな吹雪の中どちらへ?
あぁ、世界を救いに。
それはそれは。本当にご苦労様です。
え?私ですか?
人を待っていたんですよ。
いえいえ、遭難者じゃございません。
貴方を待っておりました。
そのように怪訝な顔をなさらないで下さいな。
申し遅れました。
私、貴方を殺そうとして殺される、脇役にございます。
意味がわからない?
簡潔に説明致しますと、世界を救うという名目のもとに城に仕える公務員でした父と兄を殺され、
天涯孤独となった哀れな娘が、復讐を誓ったのでございます。
世界の崩壊が真実か誰かの妄想か。
そんなことは興味ありません。
貴方が多数決支持者で、犠牲者を出してもその他大勢を救いたいとお考えになるのも、
私が意見することではありません。
同様に、世界を救って下さる有難い勇者様を私情で殺そうとする愚かな娘がいることもまた、
ご理解下さいませ。
あぁ、そんな憐憫の眼差しは止して下さい。
私などより貴方様の方がよっぽど可哀想ではありませんか。
せっかく世のため人のため、その身をていして頑張っていらっしゃるのに、
助けてやろうとしている娘に噛み付かれるなんて。
まったくとんだ奉仕活動ですこと。
でも冷静に見れば貴方がやっているのは、間違い無く大量殺人にございます。
それでも、勇者という隠れ蓑で総ては隠されてしまうのですね。
それでも、主人公という権力で総ては許されてしまうのですね。
もしも私が脇役で無く、せめて名前のあるキャラクターならば、
貴方に一矢報いてやりたいものを。
貴方のしていることに総ての人が賛同、協賛するとお思いでしたら、
とんだ夢想にございます。
だから正義や善を掲げるのは、どうか止めては下さいませんか?
あら、いやだ。
ここまで言っても剣を抜くのですか?
あぁ酷い。あぁ悔しい。
え?言いたいことはそれだけか?
世界を救うとは言ったが、それが世のため人のためなどといつ誰が言った?
俺は好きなようにやっているだけで、正義や善を語る気なんて更々無い?
勇者の肩書きだって、ただの道具?
なんだ…。勇者に夢を抱いていたのは私の方だったのですね…。