「過」
地位も富も僕のすべてをあげる、腕だけじゃなく身体すべて、心まで。
だから、君の愛を頂戴。
意味なんて解らなくていい。
どうか、頷いて。
そうでないと僕は、生きていけない。
愛しい子。
僕は優しくなんてないよ。
貴族でなかったとは言え、それなりに裕福な商人だった君の父親に圧力をかけて、
無理やり君を差し出させたのは、他ならぬ僕。
君の目に「貴族の一人」ではなく「僕」として映りたくて。
上手くいったと思ったんだ、最初は。
それなのに、摘み取ってきた花が花瓶の中で色を変えるように、
意志の強さは過度の忠誠心に、優しさは自己犠牲に、君の中で姿を変え、
慎ましさは卑屈を、誇りは自虐を、君に植え付け、
誠実さは自愛と、自己弁護の舌を、君から奪い、
君は僕から目を逸らすようになった。
僕は間違ったのだ。
救いようの無い過ちを犯した。
君は僕を神聖化し、僕の腕が欲しいと言う。
君の前で僕はまるで触れることの出来ない神なのだ。
愛など恋など、そんな対象にはなり得ない。
見返りも求めず、ただ尽くすためだけの存在なのだ。
僕が君に望んでいるのは、そんなことじゃないのに。
君は僕に身も心もすべてを捧げ、けれど決して、愛してはくれない。
壊すことの出来ない壁と、埋めることの出来ない溝が、僕と君の間にはあって、僕たちは常に平行することしか出来ないのだ。
君はただ、僕のために死にたいと望み、僕はただ、君と共に生きたいと望む。
平行線。
それでも、我儘は承知で、僕は君に愛されたい。
嗚呼、僕は、君の忠誠心に付け入って、こんなにも欲深くなっている。
以前は、ただ、君が傍にいてくれるだけで良かったのに…。
愛しい子。
なんて愚かで愛らしいのだろう。
君を一人置いて、僕が死ぬわけ無い。
死ぬときは、愛しい君も道連れに。
君を愛してる。
君の何もかもを自分のものにして、縛りつけ、
君にも同じように想って欲しいなどと、その心の中まで意のままに操りたいほど。
「縋」