「アニバーサリー」
花屋のお姉さんと30分かけて選んだ百合の花を持って、僕は君の元へ向かう。
花なんてチューリップとひまわりくらいしか判らない僕に、花言葉を考える知識があるわけない。
悩んだ結果、安易だけど君と同じ名前の花を選んだ。
「彼女にあげるの?」ってからかうように聞かれて、頷こうとしたら、怒った君の顔が頭をよぎったから止めた。
今日は記念日。
生憎、空は曇っててあんまりいい天気じゃないけど。
でもきっと、似合わない白い花を持つ僕を見て、君は笑ってくれる。
祝ってくれる人が、他に誰もいなくても、構わないよね?
君が悲しまないように、後悔だけはしないように、僕が祝うから。
あぁ、もしかしたら、おじさんとおばさんが来るかもしれない。
鉢合わせになったら、大変だ。
怒鳴られるくらいじゃ済まないな。
おじさんは僕を力いっぱい殴るだろうし、おばさんは君にすがり付いて帰ってくるよう懇願するだろうね。
2人でよくよく話し合って決めたって言っても、多分解ってくれない。
僕は反対したって言っても、言い訳にすらならないかな。
そういう頭の固いところが、君が逃げ出した原因だって、…解ってくれないんだろうなぁ。
ふぅ。
僕は、相変わらずだよ。
君を手助けした罪で、結構な不自由生活。
あ、解ってると思うけど、謝るのは無しね。
そういう狡猾なところが吐気がするくらい好きだけど。
ま、僕はまだ未成年だし、そのうちなんとかなるよ。
でもひとつだけ。後悔だけはしないでよね、僕が馬鹿みたいだから。
そんなことより、君が独りでちゃんとやってるかどうかが心配だったよ。
君って呆れるくらいマイナス思考だから。
そういえば、君が気にしていた友達だけど、君を嫌ってなんか無かったよ。
凄い顔して僕に食って掛かって来た。
君を帰せって捲くし立てて、こっちの言葉なんてカケラも聞いちゃいない。
見てて、哀れを通り越して滑稽なくらいだったんだから。
君は帰りたいって言う?
ご両親も充分思い知ったみたいだし、友達とのいざこざも誤解だったみたいだし。
もう、逃げる理由は無くなったんじゃない?
…でもまぁ、君のその酷い被害妄想はそうそう簡単に治らないか。
きっと、帰っても同じようなことを繰り返して、また逃げちゃうのがオチだね。
あれだけ人を怖がるのに、まったくどうしてそんなに狡賢いのか。
僕は君に利用されてるだけなのに。
ホント、僕が被害者だっての。
ま、でもいいや。
僕、君を愛してるからね。
君のラストキスっていう最高の見返りも貰ったし。
こんなことして、どれだけみんなに迷惑かけるか知らない君じゃないだろうに。
あぁ、だから僕に頼んだんだったね。
ちゃんと綺麗にしといたよ。
すべて君が言った通り。
さて、百合の花、供えておくね。
言ってくれるのは僕だけだろうから、言ってあげるよ。
「一周忌おめでとう」