アンケートお礼小説  【リクエスト…ちょっとグロめ】

 

「盲目」

 

女の子はお姫さまです。

いつもきれいな白い服をきて、毎日ぴかぴかの車でお出かけします。

みんな、うらやましく思っています。

女の子のお父さんは王さま。

女の子が大好きだから、何でも買ってあげるの。

お母さんはいないけど、かわいいものに囲まれてるから、女の子は平気。

大きな白いお城がおうち。

女の子のコップとグラスは数えきれないくらいあって、女の子は毎日好きなのを使います。

ふんすいのある庭には大きな白い犬と、小さな黒い犬がいます。

お庭は広くて、たまに迷ってしまうけど、2匹が見つけに来てくれるのよ。

えっと、それから…そう。

お母さんがいないかわりに、女の子にはやさしいお姉さんがいるの。

ねる前に女の子に絵本をよんでくれて、「明日の朝ごはんは何がいい?」って聞いてくれる。

女の子はいつもふかふかのベッドでねます。

そして、すてきな夢をみるの…。

 

 

凄まじい音がして、驚いた少女の体が跳ねました。

慌てて、部屋の隅っこ、壊れた壁の奥に少女は逃げ込みました。

しっかりと、大切な遊び道具を握り締めて。

扉を叩き壊すように家へ入った女は、そっと足音を忍ばせ少女の部屋へ近付き、

また、凄まじい音をたててドアを開けました。

そして、誰も居ない部屋を見渡し、ふと足元で目を留めました。

そこに転がっていたものを手に取り、

「酷い子。全然遊んでないじゃない」

言って唇だけで笑い、興味を無くしたのか、落としました。

捨てたものを跨いで部屋の奥へ進み、部屋の中央に陣取るものの前で再度、女は笑いました。

積み上げられたその中の一つを拾い上げて、

「遊び終わったら片付けなさいって、言ったのに」

それを袋に放り込んで、軽い溜息をひとつ。

「気に入らなかったの?今度は何が欲しい?欲しいものは何でも持ってきてあげる。

大きいのより、小さいのの方がいいのかしら」

女は両膝を床について、壁の隙間で身を硬くする少女と目線を合わせ、にっこり笑って問いました。

少女は答えなければいけないことをよく解っていました。

「…コップ」

「何言ってるの!そんな危ないもの…踏んで怪我でもしたら大変だわ!!」

女は急にヒステリックに叫ぶと、少女の肩を掴みました。

「欲しいって言うから、犬もお父さんもお姉さんもあげたのに。どうして?」

少女は激しく首を振りました。

「違う!!みんな、みんな違う…。みんな、冷たくて、怖い…!!」

「生きてたら危ないでしょ!!!」

2人とも泣いていました。

「外に、出たい…」

「外は、危ないわ…」

2人とも、どうしたらいいのか、わかりませんでした。

「貴女が傷つく危険があることは、何ひとつ、させないわ。

貴女を傷つける危険のあるものは、何ひとつ、見せないわ聞かせないわ触れさせないわ」

少女は仕方なく、その綺麗な綺麗な目を閉じ、母親を抱き締めました。

その瞬間、短くうめいて、女が崩れ落ちました。

「え…?」

こんっと不釣合いなくらい軽快な音がして、少女の大切な大切な遊び道具―カッターナイフが落ちました。

それは、お姉さんが欲しいと言った少女に母が持ってきた、冷たい女性の服の内ポケットに入っていたものでした。

少女にはそれがなんなのか、わかりませんでした。

ただ、それだけは、母親から強制的に与えられたものではないということだけで、それをとても大切にしていました。

「お母さん…?」

女は酷く咳き込みながら、少女に手を伸ばしました。

咄嗟にそれから逃れ、少女は開けっ放しの部屋のドアを見ました。

いつもたくさんの錠がかけてある玄関の扉。

すべて外されていました。

少女は目の前で苦しむ母親が、何故そんなに苦しそうなのかわかりませんでした。

ただ、初めて、外に、あれほど渇望した外に出られるということがわかりました。

「ちょっとだけだから」

母に言い置いて、少女は部屋を飛び出しました。

女は悲鳴をあげようとして、また咳き込みました。

重い玄関を開けた少女は、初めて外を見ました。

ふらふらと周りを見ながら歩きます。

「は、はは…」

嬉しくて、嬉しくて、笑い声が漏れたとき、

車のクラクションが空気を切り裂き、

驚いた少女は振り返り、

この大きなものはなんなのかと、じっと見つめ、考え、

耳をつんざく轟音に本能的な恐怖で逃げようとしたときにはもう遅く、

小さな体は跳ね上がりました。

少女は死ぬことをよく知りませんでした。

痛みも、よく知りませんでした。

お母さん、もう探しに来るかな。

怒ってるかな…。

そんな心配しか、頭にはありませんでした。