4.「孤独。」
弁解の余地も無く、私は、無知だった。
だって生きるので精一杯。
生に直結しない知識を得るなんて、私はそんな時間も、頭も持ってはいなかったから。
つまりそんなものは不必要と見ていたの。
だからこの街の人間の中で一番、ものを知らなかった。
そう、己の無知に気付かないほど無知だったのよ。
でも、所詮知識があっても無意味だったわ。
むしろその知識の所為で余計なことに気付いてしまった。
しかも期待を持たせるだけ持たせておいて、知識は役に立たなかった。
私は無知だったけれど、生きることに誰よりも執着があった。
そして強運だった。
今生きてることがなによりの証でしょ?
あぁ、だから、結局私の言いたいことは、知るのが遅かったのよ。
いっそ気付かなければよかったのに、私は見てしまったの。
知識なんて下らない。肝心なときに無力じゃないかとせせら笑って。
そろそろ終わる街から逃げ出し、少しでも遠くへと浜辺まで行き着いて。
もちろん無力な知識の言う通り、逃げ切れなくて巻き込まれて熱くて死ぬかと思ったけど。
でも私は生き残ったわ。
ほら、「理論上不可能」なんて当てにならないじゃない。
高笑いで街に戻ったわ。
…そのとき見てしまったのよ。
黒焦げになって原型をほとんど無くしても、しっかりと抱き合って手を繋いで、
まるでひとつに溶け合ったように死んでいるたくさんのたくさんの屍たちを。
この街の誰もが共に死にたいと思う人がいたの。
共に死ぬ人がいたの。
犬猫でさえ寄り添って死ぬ相手がいたの。
そうよ、私以外。
私はこの街の誰よりも無知だった。
そしてそれ故愚かだった。
だってね、もうそこは人の生きられない土地になってたのよ。
ずっとずっと灰が降るの。
ネズミ一匹いないし、草も生えない。
だからみんな逃げもせず死んだんだって…今更気付いても遅いけど。
街は雪が降ってるみたいで綺麗だけど、私は堪らなく怖いの。
震えが止まらないのよ。
…ひとりぼっちなの。
あんなに恐れていた死がどうでもよくなるくらい怖くて悲しいの。
もしかしたら私は死んでからも独りっきりなんじゃないかって。
この街の誰もが私に気付かなかったように、死んでからも私は誰にも気付かれないんじゃないかって。
もしかしたら私だけ、みんなと違うところに落とされるんじゃないかって。
そんなことが、こんなに怖いことだったなんて。
私を知る人は此の世にもう誰もいないのに。
でも死ぬのは怖いのよ。
それは前みたいな生への執着じゃなくて。
死んでからも独りっきりなんじゃないかって思うと怖くて、死ねないの…。
知らなかった知らなかったその言葉すら知らなかった。
私はどうしようもない莫迦よ…。