13.「誰かのために。」
そんなにキレイに微笑まないで。
かっこつけないで。
僕はどうしようもなく君が好きなのに。
君は…。
自信満々に手を振らないで。
余裕だなんて言わないで。
僕は君のためなら地球が泣き喚こうと、宇宙がもがき苦しもうと、一瞥で済ませられるのに。
君は…。
君って人は…。
まるで英雄にでもなったみたいに。
なに、勘違いしてるのさ。
君がどれだけ普通の人間か、僕はよく知ってる。
世界を救うことなんて、君に出来るわけがない。
「別に世界を救おうだなんて、考えてないよ。ただそれで誰かが助けられるなら、自分に出来ることをしたいだけ」
怒鳴った僕に、君ははっとするほど強い目で、ウインクとピースサイン。
茶化されたのか、真剣なのか、僕は毒気を抜かれて、唖然。
僕が気にもかけない’誰か’のために君は行くと言う。
そんな、顔も知らない’誰か’なんて、どうでもいい。
そう言うことさえ躊躇われる、君の確固たる瞳と声。
そんな君がどうしようもなく憎くて愛しい。
可愛さ余って憎さ百倍。
行かないでよ。
君は目を丸くして。
にやにや笑う。
瞬きと同時に真面目な顔して。
「あいしてる」
本当に救いようが無い。
無鉄砲で自分勝手で嘘つきなのに変なところで馬鹿正直。
突っ走りだすと損得も無視して、今時その歳で正義の味方に憧れる。
僕はいつも振り回されてばかり。
プライドなんて捨てて、なりふり構わず、泣きながら、言ったのに。
行かないで。
君は行ってしまった。
君に触れる。
頬をなぞる。
髪を撫でる。
解ってた。この勘は当たるんだ。悪いことだけ。
冷たい唇に接吻。
君は死んだ。
僕は解ってた。
行けば君が死ぬことを。
そして、それでも君を止められないことも。
僕は馬鹿だよ。
君が好きだったんだ。
無鉄砲で自分勝手で嘘つきなのに変なところで馬鹿正直な君が。
突っ走りだすと損得も無視して、今時その歳で正義の味方に憧れる君が。
僕の涙ぐらいじゃ、揺るいだりしない君が。
そんな君が、好きだったんだ。
好きなんだ。
僕はどうしようもなく狂ってしまいそうだった。
僕の好きな君は、絶対に行ってしまって、死ぬんだ。
僕が泣いたくらいで、縛り上げて監禁したくらいで、行かないのなら、それは僕の好きな君じゃない。
でも、僕の好きな君を、死なせたく、無い。
嗚呼、それなら、僕は、どうすれば、いいのさ。
結局僕は僕の好きな君を死なせた。
殺した。
僕は狂ってしまった。
行こうとする君。止めようとする僕。泣いて縋っても死にに行く君。死にに行く君が好きな僕。
死んでしまった僕の好きな君。僕の好きな君を殺した僕。
僕は壊れてしまった。
’誰か’を助けるだって?
クソクラエ。
こんなに矛盾してる自分すら持て余してるんだ。
他人の面倒なんか見てられるか。
世界を救うはずだった英雄は、もう死んだよ。
英雄に憧れた、ただの凡人が背伸びして作った、英雄だったんだから。
残ったのは、世界を救えるかもしれない、英雄の忘れ形見と、
その研究結果をすべて叩き壊した、狂った僕。
クソクラエ。
とにかく僕は、君が死ぬことを誰よりも先に知っていて、なのに誰もが知った君の死をまだ、解っていないんだ。
今は、それだけ。
あぁ、もうひとつ言い忘れるとこだった。
僕は、どうしようもなく、君を、愛してるんだ。